概要
ターゲット定量プロテオミクスである『iMPAQT法』を用いて、一度に多くのタンパク質の定量分析を行う受託サービスです。
- 測定機器
・QTRAP® 6500 システム(SCIEX社)
・ACQUITY UPLC H-Class システム(Waters社)
- 測定試料
・ヒト培養細胞
・ヒト凍結組織
・ゼノグラフトなど、ヒトサンプルを移植した組織
・ヒト白血球、赤血球などの血球成分(お客様にて各血球を単離した場合のみ)
・エクソソーム(お客様にてエクソソームを単離したサンプルの場合のみ)
* その他の試料につきましては、お問い合わせ下さい。
- お送りいただく試料の調製について
培養細胞:PBSで洗浄した培養細胞をペレットにし、-80℃以下で凍結保存
組織:30~50 mg程度にカット、専用のマイクロチューブに入れ-80℃以下で凍結保存
* 試料調製法について、お問い合わせ下さい。
- 測定可能項目
- ヒト主要代謝酵素:約340種
- ヒト免疫応答関連タンパク質:約370種
* 測定するタンパク質パネルのリストはKPSLホームページからダウンロード可能です。
なお、パネル内容は予告なしに変更する場合があります。試料をお送りいただく前にご確認下さい。
カスタム分析サービスについて
特定のタンパク質のサブタイプ分析や、良い抗体がなくWestern blotなどで検出できずに困っていませんか。
iMPAQTデータベースは、18,000種のタンパク質の分析メソッドデータベースがあるため、個別分子のカスタム解析も可能です。
ご注意点
本受託サービスでは、標準品として合成ペプチドを用いて分析を行うため、得られる定量値は合成ペプチド換算の値となります(前処理工程でのタンパク質の精製や、酵素消化効率は反映されておりません)。また、定量値は添加した内部標準ペプチド濃度から算出した(一点検量線での)値となります。あらかじめご了承下さい。
iMPAQT法の特長
- 18,000種のヒト組換えタンパク質から構築された質量分析データベース(fig.1)
ヒト組換えタンパク質約18,000種を人工合成し、LC-MS/MS測定することで、各タンパク質を質量分析測定するためのメソッドデータベースを構築しています。データベースは順次拡大しており、将来的にはマウスなど動物への適用も目指して開発を継続中です。
- 高感度プロテオミクス前処理と高速Scheduled MRM分析(fig.2)
九州大学 生体防御医学研究所の中山敬一先生・松本雅記先生の元で考案されたプロテオミクス用前処理手法(特許出願中)を用いて分析を行います。消化効率改善や吸着抑制効果を高めた前処理法となっており、目的タンパク質を高感度かつ高精度に検出します。また、高度にSchedule化されたMRM分析により1時間で最大400種(1タンパク質=1ペプチドでの検出の場合)のタンパク質を定量分析することが可能です。
- 大規模分析から個別分析まで幅広いニーズに対応可能
iMPAQTデータベースを活用すれば、分析したい複数のタンパク質をパネル化することが可能です。アイソザイムなど抗体では分離できずに諦めていた方もiMPAQT法ならば分析しうることが期待できます。
測定原理
基本的な原理はLC-MS/MSを用いたMultiple Reaction Monitoring(MRM)分析となります。MRM法は、四重極(Q-pole:Quadrupole)を3つタンデムに連ねた三連四重極型質量分析計において、プリカーサーイオンを通すQ1フィルターと、CID(衝突誘起解離)による開裂後の断片であるプロダクトイオンを通過させるQ3フィルターの組み合わせを設定することで、特定のペプチドを特異的かつ高感度に定量分析する手法です。(
fig.3)
MRMの感度や定量ダイナミックレンジは通常のフルスキャンMSスペクトルの取得と比べて格段に高いですが、一方で選択するペプチドやCIDによるフラグメントの質量を事前に知っておく必要があり、対象に合わせた各分析パラメーターの最適化も不可欠となります。iMPAQT法では組換えタンパク質をベースにこれら事前情報を取得・データベース化しているため、細胞や組織検体などの内在性タンパク質を効率よく定量分析することが可能です。(
fig.4)
分析例
- がん細胞代謝酵素プロファイリング
ヒトがん細胞株11種を対象に、主要代謝酵素群約340種を一斉定量分析し、ヒートマップを作成しました。各細胞の由来によって代謝酵素の特徴的な発現パターンを示しており、各がん細胞が生存や増殖するためにどの代謝経路を活性化させているのかを可視化することが可能となります。またiMPAQT法では、従来のショットガン法に代表される相対定量分析とは異なり、各酵素の発現量を定量値として算出できるため、各パスウェイの中での重要な因子を把握する事が可能となります。(fig.5)
- 各細胞分裂周期での代謝酵素発現量の比較
HeLa細胞にthymidine blockを使用して細胞周期を同調させ、2時間毎に細胞を回収して代謝酵素発現量を測定し、各定量値を元にヒートマップを作成した。
DNA合成期(S期)は多くの代謝酵素発現が抑制されている(緑色)。また、細胞分裂後成長期(G1期)に入ると解糖系・TCA サイクルに関する酵素が大きく発現が上昇(白〇部分、赤色)した。(fig.6)
- アイソザイム分析
iMPAQTデータベースを活用すれば、アイソザイムなど抗体では非特異反応により定量的な評価が難しい分子も分析することが可能です。抗体性能でお困りの際はご相談下さい。
* iMPAQTデータベースはヒト組換えタンパク質をベースに構築されているため、リン酸化など修飾タンパク質の分析はできません。あらかじめご了承下さい。
解糖系酵素:ピルビン酸キナーゼ(pyruvate kinase:PKM)のアイソザイムを分析した。(fig.7)